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乳がん 知っておきたい基本と治療法
知っておきたい基本と治療法
担当医師
佐伯 隆仁 (さいき たかひと)
済生会今治病院 外科部長
院外誌きぼう(2023年8月) 第79号 特集ページより抜粋
乳がんは女性がかかるがんの第一位であり、毎年約10万人が乳がんと診断され30年前の5倍近くに増えています(図1)。9人に1人が乳がんにかかるという計算です。乳がんにかかりやすい年齢は、30代から増えてゆき40歳からピークにさしかかり60代後半が一番多くなっています(図2)。他のがんは年齢がすすむにつれて増えてゆくことが多いですが、乳がんは家庭や仕事で働き盛りの世代が一番多いのが特徴です。乳がんの危険因子としては初経年齢が早い人、閉経年齢が遅い人、出産経験がない人、授乳経験がない人、さらに飲酒、閉経後の肥満、喫煙といった生活習慣も危険を高めると考えられています。また、家族に乳がんの患者さんがいる場合は、乳がんになる危険が高くなります。
乳がんの自己検診法
乳腺は体の表面にあるので、乳がんは自分でみつけられるがんのひとつであり自己検診が大切です。方法は、①上半身はだかの状態で鏡の前に立ち、両うでを上げ、ひきつれやへこみがないか、左右の大きさや形に差がないかを見ます。②入浴中にせっけんなどで指のすべりをよくしてから4本の指をそろえて指のはらで「の」の字を書くように動かしてしこりがないかを調べます。③入浴後に仰向けになって4本の指をそろえて乳房の外側から内側へ滑らせてしこりがないかを調べます(図3)。乳がんの症状として多いのはしこりですが、それ以外にも乳首から分泌物がある、皮膚にくぼみやひきつれがある、乳首が陥没してきた、皮膚が赤くなったりただれがあるなどで発見されることがあります。毎月自己検診をやっているとわずかな変化でも気付くようになります。
マンモグラフィーによる乳がん検診について
マンモグラフィーは乳腺専用のレントゲン検査で、板と板の間に乳房をはさんで薄く引き伸ばしてレントゲンを撮る装置です。マンモグラフィーではがんの部分が白く写り、早期乳がんの可能性がある小さいしこりや石灰化の発見を得意としていて、しこりとしてさわる前の早期乳がんを発見することができます(図4)。欧米では検診受診率の増加によって早期乳がんの発見が増えて死亡率が減っている一方、日本での検診受診率は欧米の約半数と低いため死亡率は年々増加しています。国の指針では、40歳以上の人は2年に1回のマンモグラフィー検診を受けることが勧められています。しかし、30代から増えてきますので、気になることがある人や家族に乳がんの患者さんがいる人は早めに検診を受けてください。
乳がんの診断
自己検診や乳がん検診などで異常を認めたときには、超音波検査(エコー検査)やMRIなどの画像検査を追加して行います。良性か悪性かの区別がつかない病変や乳がんが疑われた場合には、超音波でしこりをみながら細い針をさして注射器で細胞を吸い出す細胞診や、局所麻酔をして細胞診よりもやや太めの針をさし、しこりの一部をけずりとる組織診(針生検)を行い顕微鏡で見て診断します(病理検査)。乳がんと診断されてもあわてることなく、次に述べる治療をしっかりしていくことが大事です。
乳がんの治療について
乳がんの標準手術には乳房を部分的に切除する乳房温存手術(乳房を残す手術)と、乳房を全部切除する乳房全切除術の2つがあります(図5)。しこりの大きさや場所、患者さんの希望などを総合的に判断し手術方法を決めます。乳がんはわきのリンパ節に転移しやすく、以前は乳房と同時にわきのリンパ節を全部切除していたため腕のはれやしびれなどの後遺症がありましたが、現在ではセンチネルリンパ節生検という方法で、手術中にわきのリンパ節に転移があるかないかを顕微鏡で調べ、転移がなければリンパ節の切除を省略しています。
手術後には再発を減らすために薬物療法(注射薬や飲み薬による治療)が必要になることがあります。薬物療法にはホルモン療法、抗がん剤、そして比較的新しい分子標的治療薬があります。手術で切除した乳がんを顕微鏡で詳しく調べて、それぞれの患者さんにあった薬の種類を決めます。最近では手術前に薬物療法を行い、がんを小さくすることによって手術が困難な進行した乳がんを手術できるようにしたり、しこりが大きいために乳房温存手術が難しい乳がんを小さくして乳房温存手術ができるようにする術前薬物療法を行うこともあります。乳がんの薬物療法は日々進歩しており、また乳がんは薬物療法が非常によく効くがんです。
もう一つの治療として放射線治療があり、乳房温存手術を行った場合には、残った乳房内の再発を防ぐために放射線治療が必要です。がんが大きい場合やリンパ節の転移が多い場合にも手術後に放射線治療が必要となります。
最後に
乳がんは早期に発見できると完全に治る可能性が高いがんであり、自己検診と乳がん検診を受けることが大切です。当院はマンモグラフィー、PET-CT装置、放射線治療装置、薬物療法を行う専用の外来化学療法室を備えていて、乳がんの診断、手術、放射線治療、薬物療法をひとつの病院で完結できる病院です。