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手術支援ロボット「hinotori」と前立腺がん
手術支援ロボット「hinotori」と前立腺がん
担当医師
多田 靖弘 (ただ やすひろ)
済生会今治病院 泌尿器科部長
院外誌きぼう(2024年5月) 第82号 特集ページより抜粋
前立腺とは
前立腺は男性のみにある臓器です。膀胱の下に位置し、尿道のまわりを取り囲んでいます。栗の実のような形をしています。働きとして前立腺は精液の一部を作っています。
図1 前立腺の構造
前立腺がんとは
前立腺がんは、50歳代から増え始め、発生の平均年齢が70歳代の高齢男性にみられるがんです。比較的高齢で発見されることが多く、進行が遅いことが多いため、初期にはがん特有の自覚症状はほとんどありません。しかし排尿困難や頻尿、排尿時の痛みといった自覚症状が現れることがあります。進行すると、前述のような排尿の症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みがみられることがあります。
近年、日本の前立腺がん患者数も急激に増加してきています。 1975年に前立腺がんを発症した患者さまは2,000人程度でしたが、2000年には約23,000人、2006年には約42,000人と急速に増加し、2019年には94,000人以上となり、胃がん、大腸がんや肺がんを抜いて男性のがん罹患数の第一位となりました。
前立腺がんの原因
高齢化が進む日本において発生数が増加しています。ただ食生活などの要因は「発生に関連している」という程度の因果関係しかわかっておらず、決定的な原因は明らかになっていません。前立腺がんは男性ホルモンにより増大、進行し、逆に男性ホルモンをブロックすることで縮小されるため男性ホルモンも発生に関与していると考えられています。また、血縁者に前立腺がんの方がいると発生率が2~6倍に高まると報告されており、遺伝・食生活・男性ホルモン・加齢により引き起こされると考えられています。
前立腺がんの検査
主な検査は採血で行うPSA(前立腺特異抗原)検査、直腸診です。これらの検査で前立腺がんが疑われる場合には、経直腸エコー、MRI検査、前立腺生検などを行います。がんの広がりや転移の有無は画像検査で調べます。
前立腺がんの治療
前立腺がんの治療には、病巣を含めた前立腺の全摘術や、放射線を前立腺に照射してがん細胞を死滅させる放射線療法、前立腺がんの進行に関わるテストステロン(男性ホルモン)を減少させるホルモン療法、ホルモン療法の効果が無い場合に使用される抗がん剤投与による化学療法があります。この中で根治を目指すには前立腺全摘術か放射線療法が必要となります。当院の前立腺がん手術では国産初の手術支援ロボット「hinotori」を導入しロボット支援前立腺全摘術を行っています。
手術支援ロボット「hinotori」
当院では、2023年12月に手術用支援ロボット「hinotori」を導入し、2024年3月26日より「hinotori」によるロボット支援手術を開始しました。
「hinotori」は、川崎重工業とシスメックスの合弁会社メディカロイドが開発した日本製の手術支援ロボットで、鮮明な画像や手術アームの操作性の良さが特徴です。
手術者は、内視鏡と3本の鉗子の4つのアームをサージョンコンソールと呼ばれるコックピットから操作し、肉眼では視認できない細部(10-15倍)をフルハイビジョンで見ながら手術を行います。
サージョンコンソールと呼ばれるコックピット
「hinotori」の特徴
小さな創
まず患者さまの負担軽減が挙げられます。従来の開腹手術に比べると小さな傷で手術が行えるため、術後の痛みが少なく回復までの期間が短くて済みます。具体的には内視鏡やアームの挿入口は直径1cmほどと非常に小さく、摘出した前立腺を取り出すための創(切りキズ)も最小限の大きさで済みます。
繊細な手術
アーム先端の鉗子は人の手よりも大きな可動域があり、手振れもないため非常に繊細で精緻な手術を安全に行うことができます。「hinotori」の4本のアームはそれぞれ8つの関節を有しており、従来の手術用ロボットよりも多く、より人の腕に近い設計となっており滑らかな動きが可能です。
少ない出血
繊細な手術が可能なため、細かい血管も安全に処理することが可能です。また手術中の視野を確保する目的で腹腔内に炭酸ガスを注入するため、その圧力によっても手術中の出血が低く抑えられます。
治療の選択
前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術(外科治療)、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法です。複数の治療法が選択可能な場合があります。PSA値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、リスク分類、年齢、期待余命(これから先、どのくらい生きることができるかという見通し)、患者さまの治療に対する考え方などを基に治療法を選択していきます。
最後に
前立腺がんは早期に発見できると完全に治る可能性が高い癌であり、PSA検査(採血)を受けることが大切です。当院ではMRI、CT、骨シンチ、PET-CTなどの画像診断装置や超音波ガイド下の前立腺生検だけでなく、ロボット支援下前立腺全摘術や放射線治療装置2台、薬物療法を行う専用の外来を有しており前立腺がんの診断から治療まで一つの病院で行うことができます。