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がんの放射線治療 リニアックの特徴
リニアックの更新について
担当医師
片岡 正明 (かたおか まさあき)
済生会今治病院 放射線治療センター長
院外誌きぼう(2024年8月) 第83号 特集ページより抜粋
リニアックは放射線治療用X線発生装置で、放射線治療で最も重要なものの一つです。14年間稼働したリニアックの更新に伴い、最新のリニアック(Elekta 社Versa Hd)への入れ替えが終了し、2024年5月より稼働しております。この装置は、正確で精度の高い放射線治療を、患者さまに効率よく提供できるように種々の機能を備えています。そのうちのいくつかについて記述します。
(1) 強度変調回転放射線治療(VMAT)
VMAT照射法は、回転しながら放射線を照射し続けるので、従来の固定多門法による強度変調放射線治療(IMRT)*に比べて、線量分布(体内の各点での放射線量を示したもの)の改善が得られ、一段とレベルの高い治療が可能です。腫瘍に照射される放射線の線量をより高くし、正常臓器への照射はより避けられるようになりました。また、回転(1あるいは3分の2回転など)しながら治療するので治療時間の短縮となります。また、その治療計画(コンピュータ計算により最適な線量分布を求める作業)の簡便さもあり、従来の前立腺がんを中心とする治療から、肺がん、食道がんなどへの適応拡大ができます。図1に前立腺がんVMATの例を示します。目標とする前立腺には高い線量(95%~110%)が入り、最も副作用の出やすい直腸や膀胱には少ない線量となるように計画しています。
図1 前立腺がんVMAT治療例
*:IMRTは、放射線治療法のひとつで、照射する範囲(照射野)をコンピュータ制御することにより、自由な線量分布を作ることが可能で、腫瘍の線量を高く、正常組織の線量を抑えた治療を可能にする照射技術です。
(2) 定位放射線治療
VMATを用いて、定位放射線治療(ピンポイント治療)も可能となりました。この治療は、従来は固定多門照射を採用しておりましたが、代わってVMAT法によって、治療時間は従来40分~60分から20分程度に大幅に短縮されました。これにともなって患者さまの拘束時間も短いので、固定精度も向上します。図2には、小型肺がんに対するVMATによる定位放射線治療例を示します。腫瘍には処方線量の100%~130%の線量が入るように計画しており、また肺野などの正常臓器の線量は急激に低下し、副作用の少ない治療が期待できます。
図2 肺がん定位放射線治療例
(3) 画像誘導放射線治療
先述の強度変調放射線治療と定位放射線治療は、高精度放射線治療といわれるものです。これらの治療には、正確な位置合わせ(目標・腫瘍の部位を合わせること)が必須です。このために、何らかの画像をもとに照射する範囲を治療計画された目標に正確に合わせこんだ治療を行います(画像誘導放射線治療)。これを可能にするのが、リニアックに付属したcone beam CT(CBCT)です。治療直前にCT画像を取得し、3次元あるいは4次元での位置合わせが可能です。CT(computed tomography)は、一般の方でも最近は耳にすることが多いと思います。細かく体の横断像にて臓器・病気を描出し、それをもとに病気を診断する放射線検査の一つです。CBCTは、一般の診断用のCT画像と比べると画質は劣りますが、腫瘍等の合わせこみには十分なものです。
(4) 6軸カウチ(治療台)の導入
画像誘導治療に合わせ、治療台を計画通りの位置に合わせる必要があります。従来は3次元方向(縦・横・高さ)にて合わせることしかできませんでしたが、今回から(限度はありますが)回転移動も可能となり、より正確に合わせこむことが可能となり、より正確な治療ができるようになりました。
(5) 体表面合わせの放射線治療
放射線治療は、一回で終わることは少なく、10~33回にわけて毎日治療を続けるのが一般的です。そのため日々の照射の再現性は重要で、同じ位置(部位)に治療を重ねることが重要です。従来、日々の治療の位置合わせに、皮膚に書いたマークを頼りに行っていましたが、正確に合わせることはなかなか難しいことでした。またマジックで書いた皮膚マークは、患者さまにとっては煩わしいものでした。この機器には、光学的に体表面の三次元情報を取得する方法が採用されています(Catalyst TM)。これは日々の治療の再現に有用であるばかりでなく、リアルタイムに体表の動きをとらえることができ、呼吸性移動などをとらえて動きに対応した治療に応用できます。その臨床応用の代表が、深吸気息止め照射です。
乳がんに対する深吸気息止め照射
乳がんの放射線療において、深吸気息止めは、放射線治療の副作用を軽減するための技術です。この技術は、患者さまが深く息を吸って息を止めることで、乳房と心臓の間に距離を作り出し、これにより放射線が照射される際に心臓への被ばく量を減らし、副作用のリスクを低減します。この治療法は特に左側の乳がん治療に効果的で、心臓保護のために広く採用されています。患者さまは呼吸を一定時間(20秒程度)止める訓練を受け、放射線治療中に正確な息止めを行うことで治療効果を最大化します(図3)。当院では、深い吸気によって胸郭が膨らんで息止めができる比較的若い人を対象に行っています。今後の展望では、呼吸性移動の大きいがんに対して、この装置を使って息止め照射ができれば、副作用を少なく治療ができる可能性があり、臨床応用を予定しています。
図3 乳がんの深呼気息止め照射
安静呼吸時 深呼気時
おわりに
私たち放射線治療チームは、いろいろな職種の合成部隊で協力し合いながら、上記のような種々の新しい機能を駆使して、精度の高い放射線治療を目指して日々努力しています。