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長引く咳について
長引く咳について
担当医師
川上 真由 (かわかみ まゆ)
済生会今治病院 呼吸器内科
院外誌きぼう(2024年11月) 第84号 特集ページより抜粋
なぜ咳がでるのか
咳嗽は基本的に気道の中の痰や吸い込んだ異物を外に出すための生体防御反応です。
①食べ物を誤嚥したときに反射的に出る咳
②刺激が無くても出る咳で、緊張したりすると出るような心因性の咳
③何らかの刺激でのどがイガイガし、咳が出そうな感覚がして出す咳
このように咳嗽は反射的に行われるものと意識的に行うものが複雑に関与して行われます。
【咳嗽の種類】
咳嗽は喀痰の有無や持続期間によって種類分けされます。喀痰を伴わない(もしくは少量の喀痰のみを伴う)咳を乾性咳嗽、痰が絡んだり痰を出すために生じる咳を湿性咳嗽といいます。
また咳の持続期間でも異なり、3週間以内に治まる咳を急性咳嗽、3週間から8週間続く咳を遷延性咳嗽、8週間以上続く咳を慢性咳嗽といいます。このように咳が続いている期間で分けることにより感染症による咳かそれ以外の咳かある程度推測することができます。
【咳嗽の原因】
急性咳嗽の原因は様々ありますが、遭遇する頻度が最も高いのはウイルス性の感冒、いわゆる風邪です。遷延性咳嗽においても感染症後に残る咳嗽が原因であることが多くあります。一方慢性咳嗽では感染が原因である割合は低くなってきます。感染症以外の原因について少し説明します。
1.肺の構造的な病気
肺の中に異物ができたり、肺の構造が壊れたりすることで外部から刺激を受けて咳をさせる神経が過敏になったり、逆に咳を抑制する神経が破壊されたりします。主なものとしては肺癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎などが挙げられます。
①肺癌
肺癌患者において咳嗽は約6割に認めます。気管・気管支の病変、癌性胸膜炎・心膜炎、癌性リンパ管症や縦隔病変による反回神経麻痺などが主な原因です。また肺癌は喫煙歴のある高齢者に発症することが多いため、COPDなどの合併症が複数関与していることがあり、症状に合わせて様々な薬剤を使用します。
②慢性閉塞性肺疾患(COPD)
主にたばこの煙などの有害物質を長期に吸入することが原因でおこる疾患です。呼吸機能検査で閉塞性呼吸機能障害を示し、咳嗽、喀痰、労作時の呼吸苦が主な症状です。COPDに関して一番大切なことは禁煙することです。軽症であれば禁煙で症状は改善します。禁煙していても続く咳嗽や喀痰に関しては気管支拡張薬の吸入を行います。
③間質性肺炎
肺は空気中の酸素を体内に取り込む役割をしています。酸素を取り込むところを肺胞といい、肺胞に毛細血管が絡み合って酸素を取り込むことができています。この肺胞の壁や周囲の組織を間質といい、間質に炎症が起きたり線維化する疾患を間質性肺炎といいます。通常は喀痰を伴わない乾性咳嗽であり、夜間よりも日中に多く咳をします。主に鎮咳薬を使用します。
2.気管支喘息・咳喘息
気管支喘息や咳喘息は気道が攣縮することで咳嗽が起こるといわれています。咳は日中より夜間や早朝に悪化することが特徴であり、中には特定の季節で症状が悪化する人がいます。風邪などの感染を契機に悪化することが多く、風邪が治った後も咳が長引く原因の一つです。咳喘息は気管支喘息とは異なり喘鳴や呼吸困難を伴わず、症状が咳のみといった特徴が、放置していると約3割の患者さまで気管支喘息に移行するといわれています。ステロイドや気管支拡張薬の吸入で治療します。
3.アトピー咳嗽
アトピー咳嗽も咳喘息と同じように夜間や早朝の咳の悪化が特徴であり、しばしば区別が難しいです。アレルギー体質の中年女性に多く、のどのイガイガ感や痒みを伴います。時に気温や湿度、会話、ストレス、受動喫煙、運動で咳が誘発されます。咳喘息と違って吸入薬が効きません。抗ヒスタミン薬というアレルギーの内服薬で治療します。
4.副鼻腔気管支症候群(SBS)
副鼻腔気管支症候群とは副鼻腔炎と気管支炎が合併し、慢性的に繰り返す病気です。鼻づまりや鼻汁、喀痰、咳嗽が主な症状です。少量のマクロライド系の抗菌薬で治療します。
5.その他
今までに挙げた原因以外でも咳を引き起こす疾患は様々です。一見咳とは全く関係ないように思える逆流性食道炎や一部の降圧薬でも慢性的な咳嗽を起こす場合があります。その場合の治療は胃酸を抑える薬剤を開始したり、原因の薬剤の内服をやめることです。
【咳嗽の予防】
咳嗽の多くは感染症が原因です。ウイルスや細菌が上気道や下気道に炎症が起こすことで咳がでたり、喘息やCOPD、間質性肺炎などもともとの肺の病気が感染が原因で悪化することが考えられます。そのため感染予防対策をしっかり行うことが大切です。手洗い、マスク装着、加湿、ワクチン接種などです。実際にマスク装着が義務付けられていたCOVID-19流行時には呼吸器疾患の悪化は減少していたとの報告もあります。喘息やアレルギー体質の人はアレルゲンの回避も大切です。
秋も深まりこれからますます寒さ厳しくなってきます。インフルエンザなどこれからは風邪の流行シーズンが来ます。なかなか治らない咳がある方は一度医療機関を受診されてください。十分にお体をご自愛ください。