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下肢静脈瘤とは?
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とは?
担当医師
栗山 充仁 (くりやま みつひと)
済生会今治病院 心臓血管外科部長
院外誌きぼう(2025年2月) 第85号 特集ページより抜粋
心臓血管外科外来に下肢静脈瘤で受診される患者さまの中に、「下肢静脈瘤になると血栓が出来て心臓や肺に飛んでいって、死んでしまうと言われた」と思い込んでいる方を時々見かけます。これは大きな間違いで、下肢静脈瘤が原因で命を落とすことはまず無いと思ってください。肺に血栓が飛んでいく病気は、深部静脈血栓症といい静脈瘤とは別の病気です。今回は比較的身近な病気である下肢静脈瘤について詳しくお話します。
下肢には動脈と静脈があり、静脈瘤は心臓に血液が帰っていく静脈の病気です。静脈は1本だけではなく大中小無数に存在します。下肢の中心部には深部静脈という太い血管があり、普通は表面の中小静脈が最終的に下肢の付け根で深部静脈に合流して心臓に帰っていきます(図①)。下肢静脈瘤は、一次性(本来の静脈瘤)と二次性(深部静脈閉塞によって表在静脈が拡張したもの)に分類されます(図②)。
表在静脈の代表的なものは、下肢の内側にある大伏在静脈と下腿の後側にある小伏在静脈があります。この静脈の中には血液が足先に向かって逆流しないように無数の静脈弁がついています。この静脈弁が何らかの原因によって壊れてしまい、足先の方向に血液が逆流し、静脈が拡張してしまう状態を静脈瘤といいます。弁が壊れてしまう原因には、長時間の立ち仕事、遺伝的なもの、出産後、など様々です。足先に向かう逆流が長い期間続くと何らかの症状が出てきます。初期には、下肢のだるさ、むくみ、発疹、かゆみなどが出現してきますが、寝て起きると症状が消失していることがほとんどです。中期になると、明け方の下肢の痙攣や、個人差はありますが静脈が膨れて浮いて見えるようになります。はじめはまっすぐであった静脈が行き場がなくなり次第に蛇行するようになり、時には血栓性静脈炎を発症し痛みを伴うことがあります。さらに進行すると、下腿の皮膚が黒ずんで見える色素沈着や、炎症による皮膚硬化、ちょっとした傷でも治癒しにくくなり皮膚潰瘍を形成することがあります。この潰瘍部に細菌がついて感染すると重症化することもあります。
以上のような自覚症状があり気になる方は気軽に当科を受診してください。以前は侵襲的な検査が必要でしたが、現在は超音波検査ですぐに診断が可能です。当院では血管診療技士(CVT)を取得した臨床検査技師が多数所属しており精度の高い診断が可能です。
冒頭にも述べましたが、静脈瘤が原因で命を落とすことはまずありませんが、上記の症状が気になる方、仕事に差し支えがあると思われる方は、何らかの治療をお勧めします。
最近では美容上の問題で受診され治療を希望される若い方もおられますが、下肢の静脈は将来的に心臓や下肢動脈の病気の際にバイパスを使用することがあります。当院は心臓血管外科専門医、脈管専門医が在籍しており、治療方法は慎重に選択をしています。
治療法のご案内
当院では日帰り治療または1泊2日で治療を行っています。局所麻酔で可能ですが、希望により全身麻酔での手術も可能です。
PLAN1 弾性ストッキング
保存的治療法のひとつです。下肢のサイズによって適切なストッキングを適切な方法で装着すれば初期の症状は軽減・消失しますが、静脈瘤が治癒するわけではありません。
PLAN2 外科治療
高位結紮術
局所麻酔で手術が可能で、下肢の付け根または膝の後ろ側で深部静脈に合流する伏在静脈を結紮・離断します。
静脈抜去術
数か所を皮膚切開し、原因となる静脈を抜去します。静脈瘤の径が大きい場合や、蛇行が激しい症例では現在でも行っています。
血管内治療
局所麻酔下で静脈にカテーテルを挿入し、目標の静脈を閉塞します。最近の静脈瘤治療は、適応があれば血管内治療が第一選択術式になります。
高周波血管内焼灼術
当院ではこの術式で行っています。静脈の内側から焼灼し、逆流を消失します。
▼高周波焼灼用デバイス
①カテーテルを静脈に挿入
②カテーテルから熱エネルギーを放出し静脈壁を収縮させる
③カテーテルを抜き静脈壁が静脈を閉塞させる
血管内塞栓術
溶液を注入して静脈を閉鎖します。
レーザー血管内焼灼術
レーザーにて焼灼します。
皮膚潰瘍を伴う場合
慢性静脈疾患による皮膚潰瘍を伴う症例や静脈瘤術後の処置に、弾性ストッキングの装着または弾力包帯による圧迫療法が必要な場合があります。当院では2020年に新たに改訂された弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターを取得した医師2名、看護師2名による術前術後の正しい装着法の指導や、術後の外来診療でも皮膚潰瘍のfollow upを行っています。
下肢静脈が気になっている方は、まずは心臓血管外科外来を受診してください。
『弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター』からのお便り
『弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター』とは?
下肢静脈瘤・深部静脈血栓症・肺血栓症の治療およびリンパ浮腫の治療に欠かせないのが弾性包帯・弾性ストッキングです。しかし誤った使い方をすると皮膚トラブルや腓骨神経麻痺など様々な合併症を起こす可能性があります。
そこで合併症を起こさないよう正しい履き方を指導し、適切なサイズの選択、使用前後の経過観察を行うのが『弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター』資格認定者の役目です。
この資格は、2002年の第23回日本静脈学会総会において、弾性着衣・弾性包帯の正しい使用法を熟知し、患者さまの苦情や質問に答えられる医療従事者を養成する目的で認定を行うようになりました。私たちはこの資格を取得しており、弾性包帯・弾性ストッキングを使用する患者さまに合併症が起こらないよう活動しています。
▲実際に弾性包帯を巻いている様子
【主な活動内容】
・弾性ストッキングのタイプやサイズ選び
・弾性ストッキングの着脱指導
・弾性ストッキング使用時の違和感などの相談と適切な指導
・下肢静脈瘤手術後の弾性包帯装着
〈弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター資格認定者〉
建元 美奈(看護師主任)
楠橋 佳子(看護師)